第三話 詐欺というエンターテイメント


帰ってきました。
フロムサウスイーストエイジア。
今回から2・3回は旅ネタをお送りします。


以下、今回jetが感服したスペシャルエンターテイメントの詳細な記録である。
(記録的に無駄に細かく再現しているので読みにくいのはご了承を☆)


あれはshingoとミャンマーのモンラーからバンコクへ帰ってきて、南の島行き夜行バス出発までの間、映画でも観るかと、バンコクの渋谷、サイアムにいた時であった。


BTSサイアム駅周辺を歩いていたところ、一人のタイ人のおっさんが話しかけてきたのである。
「アー ユー ジャパニーズ?」
こういう場合、一応疑ってかかるのが旅先での基本である。
しかしながら今回の旅ではミャンマーでタイ人の金持ちおっさんにメシも宿もオゴられていたため、&ヒマだったため、話を聞いてみた。


おっさん(渡辺謙似)と連れの女性(安良城紅似)が言うにはこうだ。

おっさんの一人娘がタイ政府の奨学生に選ばれ日本の大学に来月から行くことになった。
なにぶん初めてだらけのことなので不安いっぱいである。
少し、日本のことを教えてくれないか。

shingoはミャンマーで世話になったタイ国の人間に恩を返せるかも、と「オッケイ」と答えた。

  • 謙 コギレイな紳士的な面長の男。40−50代。楽器を演奏する職。
  • 紅 かわいい顔した27歳女性。謙の姪。無職。コンピュータープログラマーになる勉強中。


アイスクリーム屋でアイスをご馳走になりながら話を聞く。

東大へ一年間だけ留学する一人娘のELENORは20歳で若いため、謙の妻は相当WORRYしているらしい。
first timeで分からないことだらけだが、例えば東京での住まい。
大学まで歩いて行ける物件はあるかと。安いか、と。

安いわけがない・・。
shingoはブルーになりながらだいたいの相場をバーツ換算して伝えると謙は黙った。
しかしshingoに話しかけた謙はラッキーだったと言えよう。
shingoはご存知の通り、東京の外人ハウスやドミトリー事情に詳しい。
shingoは、「徒歩は無理だが、ドミトリーならオススメをいくつか紹介できる」、と言った。
謙と紅に笑顔が溢れた。
また、ELENOR用にクレジットカードを作りたいが、「タイのこのカードで日本でキャッシング可能か」、とVISAカードを見せられた。
大丈夫と、shingoが言うと、「同じか」、と聞かれたため、shingoも自分のカードを見せて安心させた。


こんな感じで、いくつかの不安を解いていくと、謙がケータイを取り出した。
「紅の姉が日本語ができる」、と。
確かに紅は英語に問題は無かったが、謙もshingoも英語に問題があった。
なにしろ紅の姉は日本人の旦那がいたことがあり、日本語が流暢なのだそうだ。
(ちなみに一年で別れ、彼との間にできた子供を育てている。)
繋がった電話に出ると、笑えるくらい流暢な紅姉が出た。
shingoは夜にバンコクを発つため気乗りがしなかったが、
「今から遊びに来てください」とノリで飲まされてしまった。
ちなみにアイスはshingoだけが食していたが、後に謙も注文。
紅は「冷たいの苦手」と言いオーダーしなかったが、謙の残したアイスを何故か必死で食べていた。紅は笑顔が素敵であり、「ガールフレンドはいるのか」、ばかり聞いてきた。


紅が2台に乗車拒否された後、ようやく1台のタクシーを確保。
車内では謙が感謝を満面に表しながら、shingoに一方的に話し始めた。
ELENORの写真を見せながら、「大切な一人娘なんだ」、と力説した。
写真のELENORはかわいらしい娘さんだった。
「今日は何時までオッケイなんだ?shingoはいつ日本に帰るんだ?」と聞かれ答えた後、
「成田から東京大学は近いか?」と聞かれたため
「2時間はかかるよ」と答えると謙はまた頭を抱えた。
shingoが仕方なく、「では迎えに行くよ」と言うと、謙は喜んで、shingoの手帳の10月15日の欄に「ELE ARRIVAL」と書き込んだ。
また、謙は自分のケータイの番号(051410058)を紅に借りた紙に書いて、
バンコクにまた戻って来たら一度電話ほしい」と言った。
電話番号の下に、娘の名前の綴りを念のため書き始め、さらにその下に謙の妻の名前LEONORと書いた。
shingoが「シミラーだ」と驚くと、助手席の紅がニコリとこちらを見、謙が「一人娘だからだ」と繰り返した。
「息子は3人だが、娘はELENORの1人だ」と。
逆にshingoも氏名・住所(郵便番号)・電話番号・仕事を聞かれたため、謙の手帳に記した。
ちなみに「タイは初めてか?」という質問の流れから、「shingoはどういった国をこれまで旅してきた?マレーシアは?」と聞いてきたため、shingoが答えると、謙は何故かその国名をいちいちメモっていた。


けっこーいい家のようである。門を開けると車が停められるスペースがあり、右手に入り口。
入ると、紅姉(ナンシー関似)が出迎えてくれた。
コーラを勧められるが遠慮して水をオーダー。

  • 関 体格太めで眼鏡をかけた30歳女性。日本語が流暢でユーモアもあるが目は死んでいる。


謙も紅も一瞬席を外したため、関と二人きりに。
初対面のこの人物との間を埋めるため、
shingo「謙の奥さんとELEは今いるんですか」
関「今この家に向かって帰ってくるとこよ」
shingo「そういえば謙はサイアムで何してたんすか」
関「おじさんはいつもブラブラしてるのよ」
などと質問してみた。
またしつこく「ガールフレンドはいるのか?」と聞かれたため
「いるよ」と答えると、
関「タイにはいるのか?」
shingo「いや、日本にいるから」
関「日本だけじゃなくタイにもいてもいいじゃない!」と大声で言われ、
(もしかして関は日本人に弄ばれたのか・・?)とブルーになるshingo。
そして第4のキャラクター(丹波哲郎似)が階段を下りてきた。

  • 丹波 謙の姉の旦那。眼鏡をかけたインテリ風。※謙は両親の一人息子で姉が3人いた。つまり謙の子供たちとは逆の兄弟構成である。


目がデカくて人懐こい。
お互い英語の会話で、ここまでコミニュケーションしやすい人物は初めてだった。
丹波「タイ人の家に来るのは初めてか?」
shingo「他の国ではけっこーありますが、タイでは言われてみれば初めてです」
丹波「beautiful!」
謙も紅も戻ってきた。
この春雨豚肉スープも丹波が作ったとのこと。
仕事を聞かれて、「レコードメーカー」と答えると、丹波に「じゃあ何か歌ってくれ」と言われ、「ええ?何ゆえ??」と答えると、関がウルフルズのバンザイを歌って助け船を出してくれたりと、和気藹々とした時間が流れた。
ちなみに謙は義兄さんである丹波のハイテンションにタジタジである。


shingoの仕事の話の後に、丹波の仕事の話へ。
「長いことホテルで働いている」
「クアラルンプールのホテルでは18年勤めた」
という流れで写真を見せられる。
全く知るよしもなかったが、「超有名だ」と自信満々だったため
一応「へぇー!!」な大げさリアクションをする偽善shingo。
「写真のこの階にあるカジノで働いていた」
「カジノのディーラーだ」
「今はポイペット(タイとカンボジアのボーダー)のカジノのディーラーだ」と。
ずっと黙っていた謙が「shingoはカンボジア行ったことある」とカットインしたが、
shingoはこれまた知らなかったので、丹波のプライド傷つけちゃマズイと
また一応「へぇー!!」な大げさリアクションをする偽善shingo。


「カジノは行ったことあるか」
「ギャンブルは好きか」
と聞かれ、はっきり言ってギャンブルは大嫌いだったが、
丹波のプライド傷つけちゃマズイと「やったことない」と婉曲に返す偽善shingo。
で流れは「カードゲームはするか?」と。「ポーカー・ブラックジャック・・」
shingoが「まあ、ごくたまに友達と」と答えると、丹波

ブラックジャックには必ず勝てる方法がある

と言った。
shingoは全く興味がなかったため、
「今日は奥さん&娘さんと話しに来たため、今度ポイペットのカジノに行った時に教えて下さい」と言うと、
関が「おじさんはいま教えたいみたいよ」と言い、
丹波は「準備して来るぜ☆」といったん二階へ。


戻ってきた丹波と「shingoがタイ人の家に来るのがfirst timeなのは光栄だ」とか、
「shingoの100円ショップキャラクター腕時計と私の時計を交換しないか」とか、
(ちなみにそれは「メモリアルなしろものだから」と断った。)
再び和気藹々とした後、丹波と二階へ。
丹波に呼ばれ、関も二階へ。


ここで、

ん?これってもしやあの変化球?

とようやく気付いたshingo。
あの変化球とはマレーシアで有名なトランプ詐欺*1である。
金を取られるつもりは名古屋ケチ人間shingoには毛頭無かった。
逆に、NOと言えない日本人としてどこで「NO」と言い帰ろうか。


テーブルの上には典型的な緑のシートの上に、カード、チップ。
何も考えずに奥に座ろうとすると、丹波が「レディーファースト」と関を奥に座らせた。

軟禁*2キター Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒Y⌒(。A。)!!! 

でまた「カジノに行ったことがあるか?」と丹波
無いと答えるshingoに、わざわざ「金でチップを買って→ゲームして→チップを現金に戻せる」と説明。
しかも単純な英語なのに関がいちいち和訳。
しかも丹波もいちいちその都度「You understand?」と慎重。で、

カードゲームはスロットやルーレットと違い、LUCKではない、SKILLだ。
必ずカードゲームで勝つ方法、それは信頼できるディーラーと組むことだ。
あなたがかける金にはディーラーの金も含めておく。
勝てばあなたもディーラーもwinwinだ。

で、ディーラー丹波の腕自慢が始まった。
要は手品である。
典型的な、こちらが引いたカードを当てるタイプだ。
種は知らないが、この手の手品に飽き飽きしていたshingoは
引いたカードを当てられるたび「WAO!!」と驚いたフリ。
芸が一つ終わるたびに丹波は、
アメリカやオーストラリアにはスゴ腕のディーラーがいるが、アジアでナンバー1はオレだ」と言ったり、
「ほとんどのディーラーが何らかの方法でカードにマークを付けるがオレは付けない」と言っていちいち別のトランプに変えたり、
「スメルや音で当てる。このカードからはあのスープの香りがした」と言ったり、
そしてそれをいちいち真剣にうさんくさい日本語に訳す関がいたりで、
jetもshingoも爆笑をこらえるのに必死であった。
3つほどの宴会芸を見せられた後で、
「You believe?」と来たのだが、shingoもいいかげんな男である。
「アイ ビリーブ!」「アイ トラスト!」と答えるのであった。
要はここまでの流れで丹波的には「つかみはオッケイ」ということであろう。


話は、ディーラー丹波と組んで、次回ポイペットのカジノで大勝しようという流れに。
丹波「カジノで使う金を全額わざわざ持ってくるのも何だろうが、カジノはカードも使えるぜ。VISAとか・・」

伏線キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━ !!!!! 
  • ELEへの振込みのためのVISAカード→shingoがVISA持ってるか謙は事前に確認→カジノでVISAカード→shingoのVISAカードから金をふんだくるつもり。


これだけじゃない。
たくさんのことが蘇り、気付く。

  • なるほど謙が「マレーシアに行ったことがあるか?」と聞いたのは「トランプ詐欺知っているか?」と聞いているのと同じだったのだ。
  • そういえばさっきの手品の一つの種、英語だから分からなかったが思い出したわ。
  • 謙はshingoがこれまで行った国を聞いて、逆に行ったことなくて知らない国を、家に着いて関にshingoを任せている間に丹波に報告→で、丹波は自分がクアラのディーラーという設定にした。カンボジア丹波の認識ミスで、だから謙はカットインした。
  • 謙が紳士的、紅が男ウケ、関が日本人を安心させ、丹波がダマすというよくできたキャラクター。
  • アイスやスープや時計やコーラという物で釣る作戦。
  • 服も家も、金にこまってない風だが、紅がアイスをケチるというニセ金持ち。
  • 乗車拒否にあったのもそれなりの理由?
  • ていうかこいつらタイ人じゃなくマレーシア人?
  • 「一人娘」や「日本の物価は高い?」などで情に弱い日本人攻略。
  • わざわざshingoのジップコードまで聞く謙の細かい演技。
  • 「今日は何時までオッケイなんだ?shingoはいつ日本に帰るんだ?」→「何時までに金を巻き上げて、何日になればほとぼりが冷めるんだ?」
  • shingoの帰る日を聞いてから、ELE来日を15日に設定。
  • 「タイ初めてか?」と右も左も分からぬ人間か確認。
  • shingoの職を聞いてから、自分の職ディーラー話を始めた丹波の巧妙なトークの流れ。
  • 謙は妻と娘の名前を一字違いのアナグラムにしたり、子供を女1男3、自分の兄弟を女3男1のシンメトリーにするなど、芸が細かい。
  • 紅のプログラマー目指してる設定や、関の子供がいるという設定も、真実か虚構か曖昧などうでもいいくらいの芸の細かい設定。
  • 丹波が出てきてから急に謙が静かになったところを見て、詐欺の核心部分を演じる丹波がリーダー。

などなど。


そこまで考えて一つ浮かんだ懸念。
旅マニア&犯罪マニアのshingoが思い出す、トランプ詐欺のレアなケースで、睡眠薬というオプションがある場合だ。
随分楽しんだ。
しかし、スープに睡眠薬が入ってたとすると、胃での消化を計算すると、そろそろか。
なんて考えると心なしか身体が熱く感じる気がしてくる。緊張だろうが。


shingoは突如「帰ります」と席を立ち上がると、
丹波は「オッケイ」と言い、やはり追ってこなかった。軟禁だ。
急な出来事に、1階のソファでくつろいでいた謙は驚いていた。
無視して、ドア→門を開け、shingoは外へ出た。
そして通りを走っていたタクシーに飛び乗った。
窓から外を見ると、ゆるやかな歩調で謙が家から出てきていた。
笑顔で。頭の上で手を謝罪しているかのように合掌しながら。

認めやがった。

完全に有名なトランプ詐欺の類だった丹波や関を詐欺師だと気付いてもさして驚きはなかったが、あんだけ娘に関する細かい設定を聞かされ、なおかつ、大東亜共栄圏構想&ドミトリーマニアとして会社一日休んででもELEを成田まで迎えに行こうか、とタクシーの中で考えもしたshingoにとって、その謙のあっさり認めは衝撃的であった。


その後、聞いた話によると、マレーシアだけでなくこのパターンはタイでもここ数年かなりの数の被害が起きているそうだ。4日前も日本人の女のコがだまされたという。女のコの場合は、来日するのが息子(男)であるというパターンなのだそうだ。犯人グループはシンガポール人、マレーシア人が多いが、タイ人が行うケースもあるという。ていうか地球の歩き方にも載ってるね。jetとshingoが知らなかっただけだった。


それにしても、怒りはもちろんあったが、
感服した。
shingo1人のために個性溢れる4人がそれぞれの珠玉の演技。
もしかしたらjetやshingoには分からぬ母国語で、
「お前セリフ飛ばすなや」とか言ってたかもしれない。
何てエンターテイメントを堪能できたのだろうと思う。
「beautiful!」

*1:クアラで声をかけられた旅行者がそのマレーシア人宅に行くと、ブラックジャックに勝つイカサマを教えられる。そこにやってきた第三者とゲームをし、イカサマのため勝ちまくるが、あれよあれよと賭け金がデカくなっていき、最後のゲームでイカサマが通用せずに負け、大金をむしりとられる詐欺のこと。

*2:必ずこの詐欺ではその状態自体が罪にならぬよう、「監禁」ではなく「軟禁」状態におかれる。